特定行政書士制度
このページでは、特定行政書士制度に関して書いています。
・平成26年行政書士法改正
平成26年6月27日、行政書士法の一部を改正する法律案
・第186回国会、衆法
提出者 総務委員長
https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_annai.nsf/html/statics/housei/html/h-shuhou186.html
・提出者が委員長なので国会法50条の2による法律案の提出
目次
議員立法であるということ。
議員立法は、議員が様々な契機で立法が必要だと感じることから始まると言われてる。例えば、議員活動を通じて知ることになる国民の声、報道機関による報道から得られる情報や自らの政治理念に基づき立法が必要であると感じることもあるだろう。
またその他の理由として、政府からの法律案の提出を待つことができない場合や、担当省庁が取組に消極的で立法化が期待できない場合や省庁間の調整がつかない場合にも、議員が立法に踏切る動機となるようである※1。
特定行政書士制度の場合はどのような理由を契機として議案が提出されたのであろうか?
行政書士が不服申立を業務にできるようにする運動はこの法律案ができる前から行政書士によって行われていたこと※2、災害の際の働きや町での身近な働きが評価されていること、他士業との調整がある程度整ったこと、などが推進力となって法律案の提出に基づいたと考えられる。
※1 芽野千江子「議員立法序説」(レファレンス平成27年9月号)7ページ国会図書館デジタルコレクションリンク
※2 日本行政書士政治連盟は、政治と実務の調整に関して努力をしている。https://www.gyoseiren.jp/
国会での審議状況
国会での審議に関しては、すんなりと決議されていたようである。別段反対意見も見当たらない。議論の内容としては、どのような分野で特定行政書士の活躍が見込まれるのかどうか?訴訟において審査請求前置主義を取る分野で、特定行政書士が扱うことが予想されている分野があるのかどうか?特定行政書士の法定研修が身のあるものになるのかどうか?※3。などである。
国会議論全般での行政書士に関する説明は、平成26年時に行政書士が多く取扱っている業務に関するものを想定して議論されていると感想をもった(例として建設業や産廃)。
行政法を読むと、行政書士が関与できる部分は非常に多いので、私としては総務に近しい印象がある。建設業法等の特定の業務を例にとり議論を進めることとの親和性に違和感を覚えてしまう。
しかし、このことは行政書士の業務が、「他の法令で制限されていないもの」とする控除説的な業務内容であることから致し方ないのかもしれない。
進んで考えると、特定行政書士制度では不服申立のできる範囲を「行政書士の作成した書類に係る、、。」として一定の制限を設けている。この条文上の文言は、制度を明確化する上で必要な条件として働いていると考えられなくもないのではないか。
※3特定行政書士考査の難度は、行政書士の7割程度が合格すると言われているが、研修の量や問題の難易度からみて「簡単な試験」と評価されることは少ない。なお、研修には多額の費用がかかることも見逃せない。
特定行政書士の業務
行政書士法第1条の3第2号
前条の規定により行政書士が作成した官公署に提出する書類に係る許認可等に関する審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立ての手続について代理し、及びその手続について官公署に提出する書類を作成すること。
この規定が特定行政書士が扱える業務となる。ポイントは
① 許認可等に関する
② 行政書士が作成した
③ 審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立ての、、、。
というところである。
「許認可等」
許認可等は行手法2条3号と同様である旨が行政書士法1条の3第1号で定められている。すなわち、自己に対し何らかの利益を付与する処分である。
「行政書士が作成した」
作成した書類は、申請書の一部でもかまわない。また、上申書等の法律に定めが無い文書を作成することを含む。
「不服申立て」
基本的に不服申立ての一般法である「行政不服審査法」に沿って取扱えるかどうか解釈する必要がある。行政不服審査法は多くの法律で準用されているので個別法を読む必要がある。なお、他の法律で「審査請求」という文言が使われている場合には行政不服審査法による「審査請求」と同義に使うように意図して使用するとする法制執務があるようである。※4
そうだとすると、他の法律で「審査請求」と称される手続きは特定行政書士が扱えることになる。
(コラム)
行政法による救済に関しては「審査請求」以外にもさまざまな申出がある。「異議」「審査」等である。このような文言である手続きは、特定行政書士が扱えないのであろうか?
そもそも、法文は、「審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立ての、、、。」と書いている。この「等」がどの程度の含みを持たしているのか?が解釈問題となり議論が生まれそうな部分である。
私は、この点につき消極に考えている。行審法の言う「審査請求」の文言に統一して法律を組立てた行政法の意味が減殺される結果となってしまうこと。行審法の所管は総務省であり行政書士法の所管も総務省であることから文言どおりに法律を解釈することにより、総務省の監督との相性も良いことを理由とする。私の立場からは上記の「等」は「ら」と解釈する結果になる。
なお、インターネットのなかには、特定行政書士が、外国人の出入国の出入国又は帰化に関する処分の不服申立を扱えると説明するものがある。この点、行審法7条10号は同法の適用除外としているところから、行政書士は取扱えないとするのが実務の状況である。
もっとも、上記の「等」の解釈次第では、扱える可能性がゼロであるとは考えられない。私の知る限り、令和6年現在では特定行政書士に関する判例が見あたらない。「等」は裁判所の判断を仰ぐ趣旨なのかどうかも定かではない。
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※4 宇賀克也『行政法概説Ⅱ 行政救済法〔第5版〕』有斐閣2016年、87頁以下。
審査請求等の手続を扱えるということ。
同条は弁護士法72条ただし書き「他の法律に別段の定め」に該当することにより、特定行政書士による審査請求等が非弁行為とならないということを主眼とする。
このような法律は、社労士法(2条1号の3)や税理士法(2条1号)にも定めがある。
弁護士法72条の目的として、「法秩序の維持」と説明さているようである※5。そうだとすると、特別の規定として他仕業が、審査請求等の法律事務を扱うためには、士業の質の確保が必要であることはいうまでもない。
そのため、行政書士法は審査請求等を取扱うために法定研修及び終了の考査に合格する必要があるとしている(同法一条の3第2号、第3号、同法2項)※6。
法文によると、日行連が定める研修ということになっているものの、日行連は総務省から講師を迎えるなど、総務省との結びつきは強い。
法定研修の難度や講師陣の人選からみても、総務省の監督がよく働いているように感じる。
※5 札幌弁護士会HPリンク
特定行政書士研修と考査
法令研修は、令和6年現在、受講期間中の8月上旬から10月上旬までに、18の講義を受けることにより行われる。
配布されるテキストは、研修テキスト1冊、サブテキスト2冊である。研修は、2か月半ほどの期間で行われる。その期間の中で、上記の3冊+18の講義をする必要があることになる。結構な量である※7。
研修の受講後に行われる考査では、上述のテキストや講義の中からの出題ではない。そのため、考査に当たっては、ある程度の試験勉強が必要であると考えられる。
実際に、特定行政書士考査のための書籍が一般販売されている。そのことは、他仕業の法定研修では見られない現象であり注目できる。
(参考)特定行政書士考査受験体験
※7 サブテキストは書籍として販売されている。
特定行政書士の現状
令和4年度末までの資料となるが、特定行政書士を取得している行政書士は5213人となっている。※8 その年の行政書士全体の合計が訳51000人なので、特定行政書士は約10パーセント程度となっている。
特定行政書士の取得者数が低い理由としては、次のような理由が考えられる。
① 取得にかかる費用が高い。
② 「行政書士の作成した、、、許認可等に係る」という要件があることから使いにくい。
③ 業務としてメインで扱っている事務所が十分な収益をあげていることが明らかではないので、事業として成立すのか不透明であること。
等の理由が考えられる。
①に関しては、行政書士会の会費はもともと高額ではないことから、法定研修制度の維持のためには、費用が高くなってしまうことは一定の限度で仕方ないと考えられること。
②に関しては、申請に関わらない不利益処分や準司法手続きと呼ばれるような性質の不服申立ては、弁護士法の対象とする性質になじむこと。そのためには「行政書士の作成した、、申請等、、」という要件が有効に働くこと。
③に関しては、今後の時の経過を待つしかないこと。
等による説明が可能だと思われる。
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北原 伸介
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