重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律案について
このページでは、重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律案について書いています。法案に対する意見等は私個人の意見であり行政書士会は関係がありません。
また、記事内の文面に関しては、行政機構等の情報をもとに、筆者が端折ってまとめているために正確性の確保のためには原文にあたってくださいませ。
目次
重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律案について
重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律案が必要な理由
① 重要経済基盤に関する情報であって我が国の安全保障を確保するために特に秘匿することが必要であるものについて
② これを的確に保護する体制を確立した上で収集し、整理し、及び活用することが重要であることに鑑み
③ 当該情報の保護及び活用に関し、重要経済安保情報の指定、我が国の安全保障の確保に資する活動を行う事業者への重要経済安保情報の提供、重要経済安保情報の取扱者の制限その他の必要な事項を定めることにより、その漏洩の防止を図り、もって我が国及び国民の安全の確保に資することを目的とする(案1条)。
上記のようなことが書かれていますが、立法経緯を見ていますと民間にも「セキュリティ・クリアランス保有者」を拡大することが大きな目的なのではないか?と筆者は考えます。世間では特定秘密保護法の拡大とか言われています。
※、「セキュリティ・クリアランス」とは、国家における情報保全措置の一環として、政府が保有する安全保障上重要な情報として指定された情報に対してアクセスする必要がある者のうち、情報を漏らすおそれがないという信頼性を確認した者の中で取り扱うとする制度です。
※、「セキュリティ・クリアランス」とは、国家における情報保全措置の一環として、政府が保有する安全保障上重要な情報として指定された情報に対してアクセスする必要がある者のうち、情報を漏らすおそれがないという信頼性を確認した者の中で取り扱うとする制度です。
特定秘密との関係
経済安全保障上の重要な情報の中にも「特定秘密保護法」の対象となるような情報(漏洩すると著しい支障がでる情報)は特定秘密として扱われるように運用基準や解釈で追加する方針のようです※1(資料5)。それに対して、今回の重要経済安保情報は漏洩すると支障が起きる程度のものとされています。
その結果、特定秘密相当ではなかったものが「支障が出る情報」としてセキュリティ・クリアランスの対象となります。国民にとっては秘密が増える状況が発生することには注意が必要です(資料1,2頁参照)。「秘密保護法案を拡大し秘密の範囲を医療や食料分野なども含む経済分野のあらゆる情報を拡大する」との国会での野党答弁があります(資料6)。
※1 防衛・外交・スパイ防止・テロ防止の4分野に限定して制定された特定秘密保護法に経済安保を加えることを、国会で審議せず政府の一存で決められるのか?との厳しい批判があります(資料5)
※2 有識者会議最終とりまとめによると、「指定の対象となる情報の範囲については、法令等によりあらかじめ明確にしておくべきである。」とコメントされています(資料3最終とりまとめ、5頁)。
セキュリティ・クリアランス保有のための適正評価
セキュリティ・クリアランスを保有するためには、内閣総理大(場合によっては、行政庁や警察本部長)による適正評価を受けなければなりません。評価の内容は
適性評価における調査の内容①重要経済基盤毀損活動との関係に関する事項(評価対象者の家族(配偶者、父母、子及び兄弟姉妹並びにこれらの者以外の配偶者の父母及び子。)及び同居人の氏名、生年月日、国籍及び住所を含む。)、②犯罪及び懲戒の経歴に関する事項、③情報の取扱いに係る非違の経歴に関する事項、④薬物の濫用及び影響に関する事項、⑤精神疾患に関する事項、⑥飲酒についての節度に関する事項、⑦信用状態その他の経済的な状況に関する事項重要経済基盤毀損活動ア重要経済基盤に関する公になっていない情報のうちその漏えいが我が国の安全保障に支障を与えるおそれがあるものを取得するための活動等の活動であって外国の利益を図る目的で行われ、かつ、重要経済基盤に関して我が国及び国民の安全を著しく害するおそれのある活動イ政治上その他の主義主張に基づき、国家若しくは他人にこれを強要し、又は社会に不安若しくは恐怖を与える目的で重要経済基盤に支障を生じさせるための活動 下記、資料1引用
ということで、個人にとって機微な情報であることが分かります。このような情報を提供する適正評価を受けるかどうかは任意であるとされています。しかし、一個人が会社や機関から適正評価を受けるよう勧られることは大きな圧力となります、そのときの「任意」は任意といえるのでしょうかとの批判があります。
制度の必要性
・日経連などは、本法のような政策をとるように政府に提言を行ってきたという背景があります。本法案に関しては、経済団体主導で引っ張られてきたという事実は重要です。以下のような理由があるようです。
・情報保全制度が経済・技術の分野にも定着し活用されている国々との間で協力をするめるために必要があるということです。
例えば、情報保全制度のある国と民間企業が協力する場合に、日本企業には情報保全制度がないので、踏み込んだ情報に触れることがないこと。セミナーや説明会にも情報保全制度の対象となっていることを求められたりすることがあるようです。
そのようなことから、経団連等の企業は重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律案に対して前向きな姿勢を有しているようです。
他にも軍事情報流出のために、情報を整理する必要があるなどそのあたりの理由もありそうですね(資料5参照)。
※アメリカでは「クリアランス保有者」は民間を含め400万人以上いるということです。そのうち民間話3割程度。資料3最終報告
制度に対する反対意見
・どのような情報を対象として想定しているのか?に関してまともな回答がない。資料4、5、6
政府が三室で機密情報を指定して運用すれば国民の知る権利を阻害するリスクがある。←恣意的な指定とならないよう運用基準で情報の範囲を明確化する予定である。・指定される情報の件数、適正評価の対象者数の見込みについては「現時点で厳密に示すことは困難」(20240319衆議院本会議、首相答弁)資料6
・どのような情報を対象としているのかハッキリしないにもかかわらず、刑罰が定められている。罪刑法定主義の観点から非常に問題である。28日衆議院内閣委員会参考人意見
・適正評価のための身辺調査は本人の同意を得た上で行うが、プライバシーの侵害につながりかねない。資料4
・企業や研究機関に所属する人にとって、適正評価が事実上の矯正になるおそれもある。資料4
・※1 防衛・外交・スパイ防止・テロ防止の4分野に限定して制定された特定秘密保護法であった。新たな秘密を加えることを国会で審議せず政府の一存(運用基準等)で決められるのか?との厳しい批判があります(資料5)
経過
・令和6年2月27日法律案閣議決定 首相官邸HPリンク
・令和6年3月19日衆議院本会議、趣旨説明
・2024年3月22日213回国会内閣委員会で審議入り
・28日参考人意見聴取、YouTube立憲民主党チャンネル
・4月2日首相出席
・2024年4月9日213回国会衆議院本会議通過(有識者の意見を添えて毎年度国会への報告をすること等で調整)
反対、共産
軍事開発拡大につながること
プライバシーの侵害
国政調査権を侵害すること
学問の自由を侵害するおそれがあること
運用で特定秘密法を拡大することは許せないこと等
を理由に反対
・2024年4月23日参議院内閣委員会質疑、リンクyoutubeニコニコニュース
リンク
資料
4、東京新聞 https://www.tokyo-np.co.jp/article/308035
5,朝日新聞2024年2月28日朝刊
6,朝日新聞2024年3月20日朝刊4面「身辺調査法案審議入り」
・重要経済安保情報の範囲に関してあいまいな議論
・20240322内閣委員会で審議入り
・国会提出時法案リンク衆議院
・2024年4月10日朝日新聞朝刊1面「身辺調査法案が衆議院通過」
・YouTube、衆議院本会議2024年4月8日日テレちゃんねるリンク
・2024年4月23日参議院内閣委員会質疑、リンクyoutubeニコニコニュース
感想
・本法が成立すると重要経済安保情報を取扱える事業者とそうでない事業者との格差は広がると感じます。しかし、経済団体が言うようにセキュリティ・クリアランスに関する制度は必要であるように感じます。そうなると、適切な手続きによる重要経済安保情報の指定を行うことにより、秘密の範囲を厳格に絞ることは必要不可欠でしょう。
・重要経済安保情報は国民にとって秘密が増えることになります。その範囲はある程度厳格に絞られる必要があることは明白です。その点、政府は「運用基準」をつくることで対応するとしているようです。しかし「運用基準」は国会の審議を経ることなく政府がつくり替えることができるものです。そのような手続は、国民の知る権利の制限となる重大な仕組みの防壁として相応しくないと考えます。
・参院でも「どのような情報が対象となるのか」ハッキリせずに法案が通過してしまいました。
どのような範囲が対象となるかは政令、規則で定めるということです。衆院内閣委員会参考人の発言も参酌して考えますと次のような状況であるとおもいます。すなわち、「変更が簡易な政令で罰則の範囲が動いてしまう」これは非常に怖いことであると感じます。
罰則に直結する「なにが対象となるか?」がハッキリしないと自由に動く事ができません。憲法上の自由主義の観点からみても問題があるのではないでしょうか。
・政令、運用基準の作成にあたり有識者会議の議論も行われるようです。メンバーと発言が気になるところです。2024年4月24日
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北原 伸介
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