サービス業向け高齢のお客様に認知症などの症状が現れる前に
目次
進む高齢化社会
みなさんご承知のとおり、日本ではものすごいスピードで高齢化が進んでいます。
2021年統計では65歳以上の人口は前年比に比べ22万人増加して、過去最多となりました。(総務省統計局)これは総人口で言うと29.1%とということになります。
この状況は大変深刻ですが、すぐになんとかなる問題でもないので受け止めるしかありません。
サービス業における悩み
私は、行政書士でありますが美容師としてのキャリアもあります。20年ほど美容師として働いてきました。そのうちの半分くらいは創業して千円カットのお店を営んでおります。
千円カットのお店は、高齢者の皆様がご来店するには強い形態のお店です。安くて早く終わるし、体も楽だからです。
ですので、お店を通じて高齢者の皆様をみてきました。悲しい事ですが、老いてゆくうちに様々な問題が出ててきてしまいます、身体の問題はもちろんですが心の問題も現れてきます。
私たちはサービス業ですが介護や医療のプロではありません。ですから、高齢者の態度や問題などにより傷つきやすく疲労も多くたまってしまいます。
そこで、私たちサービス業は介護をも含むサービスを提供しなければならないのか?が問題となります。
この点、サービス業は業務であるところ当然に営業の自由がありますし、競争法の観点から考えましても原則として自由に業務を行うことが望ましいということが言えます。そのように、考えるのであれば介護までをも含むサービスを提供するか否かは原則として自由であるということが言えると思います。
行政機関の対策
行政機関は高齢社会に対応するために様々な取り組みを行ってきました。たとえば、東京都では高齢者の心身の健康の維持、生活の安定、保険・福祉・医療・介護予防の向上と増進のために包括支援地域センターがあります。社会福祉士、保健師、ケアマネジャーなど、高齢社会に関する専門家が地域のためにがんばっています。
また、その他にも民生委員を中心とした社会福祉協議会などは、高齢者の見守りや貧困問題をあつかっていまして、心強いですね。
その他にも、中野区では、一人暮らし等の高齢者の方が地域で安心して暮らすために対象者のお宅に見守りセンサーなどを貸与し区が委託している民間センターへ通報され、消防署などとともに救助活動を行うサービスや認知症が原因で他人に危害を加えてしまった場合の保険制度の完備なども行われています。
その他にも、数えきれないほど数々の制度が用意されていますので、気になる方は包括支援センターに相談してみるといいでしょう。
家族や周辺機関との関係構築
ご高齢のお客様は日に日に自由が利かなくなります。それに伴い私たちの業務も増えます。例えば、私は散髪が仕事ですがお客様が正しい姿勢で座ることもままならず、無理をした姿勢で散髪業務をしなくてはならないことが増えますし、お客様によってはお財布を忘れたり、オーダーができなくなったりします。
そんなときはご家族の協力が必要となってきます。その場合にはご家族と良い関係性を築く事が重要となってきます。ときには、成年後見人とのコミュニケーションも必要となるでしょう。
お店に対する、ご家族や介護士さんや後見業務を行っている方々は皆様気を使ってくださり良い雰囲気で接してくださいます。それは、もちろん人柄によるところも大きいでしょうが、介護に関する知識も大きく関与していると感じます。図書館に行って介護関係の本を読みまくってみるとどの本にも、チームワークの重要性が説かれています。私たちも、チームワークを意識して良い関係性を保つ努力をするべきです。
通報や申告と同意書面の必要性
ご家族や周辺機関の方がいて下さるケースであれば、その方はある程度安心です。近くにその道のプロがいてくださっていますし、必要な情報も持っているからです。いわば社会保障のレールに乗っているということができるでしょう。しかし、そのレールに乗ってない人も多いのが現実です。
高齢問題の端緒をつかむことは簡単な事ではありません。多くは何か問題があってからの警察による申出などが多いのではないかと思います。しかし、問題があってからレールに乗るのでは遅いというのが、行政機関の本音ではないかと感じます。杉並区を例にとると「物忘れ相談」などを開催し、いち早く症状を抑えるためのプロセスに移行できるように努力していますし、同様の事前相談的な制度は各地方自治体に見れるからです。
思うに、事前相談などの窓口に自分から行ける人はすべてではないでしょうか?たとえば、頑固一徹職人肌の静かな気質の方が事前相談に行くでしょうか?私としてはいかないと思います。しかし、事前相談を否定しているわけではありませんしむしろ推奨しているのですが、それでも全ての人に有用ではないということを言いたいのです。人生価値観はひとそれぞれでなくてはならないのですから。
そこで、私たちサービス業がインフラとして役に立つのではないのか?というのが私の意見です。例えば私は散髪屋なので頑固一徹にも割と好かれやすい職種であります。ですから、「今度認知症の相談にでも行ってきなよ」なんてことが言える、、、、わけありません。
わたしは、そのような問題に直面してあれこれ考えました。張り紙をするとか、パンフレットを置くとかやってみましたがそんなもの読む余裕はありません。よくよく考えると、その日普通に散髪をおえることの難易度が日に日にあがっているわけで、おそらく本人としては、今日普通にサービスを受けることでいっぱいいっぱいなのです。
もっとも、私が図書館で読んだ一つの本には、「認知症かも」と正直に伝えたほうがいいと書いてあるものもありました。しかし、その発言は私が言う事ではないような気がしますし、お客様には一生言わない気がします。
それから、私は頑固一徹を福祉のレールに乗せる手段を考えたのですが。本人を傷つけることない方法でなおかつ安全なのは、私が行政に通報すればいいという事でした。
ここで、通報するということは個人情報のやりとりを含むために気を付けなければならないことがあります。個人情報は利用目的を特定して取得しなければなりません。(個人情報保護法17条)そして、利用目的の達成のために必要な範囲を超えて個人情報を使うには「本人の同意」が必要となります。(同法18条1項)しかし、その場合でも例外があります。
例外の中には、人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意をえることが困難であるとき。と定められています。(個人情報保護法第18条3項2号)この条文に該当すれば通報のために個人情報を使うことが許されるわけですが、福祉のために行政機関に情報提供することがそのことに該当するでしょうか?
上記の条文をみると、①人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であること②本人との同意を得ることが困難であること。を必要としています。
これを接客サービスに当てはめてみると①では何らかの危険があり②同意をえることが困難である場合とはどのような状況なのでしょうか?
たとえば、お店などで勘定ができない場合で通報の同意を得られないような場合がこれにあたるでしょう。お店の財産の保護のために必要があり、通報の同意が得られません。しかし、ご家族や後見人に連絡をとれるのであればまずはそちらを優先するのがいいでしょう。
また、本人の事理弁識能力が低下していて自宅まで帰れそうにない場合や体調が悪そうで本人に危険がみられる場合なども同意を得づに個人情報を使って通報することが許されると考えます。また、本人が虐待を受けているような症状が見て取れる場合にも通報すべきです。(高齢者虐待の防止、高齢者擁護者に対する支援等に関する法律7条)
以上のように、例外的に通報に個人情報を使える状況であればよいのですが、何となく認知症の症状が出てきたような場合で身体や財産に危険がない場合には、原則として通報に対する本人の「同意」が必要となります。そのような状況の例としては、・同じことを何度も話す・毎日のように同じものを購入する。・自転車の鍵がわからない・季節に合わない服を着ている。・異臭がするなどの状況があるでしょう。このようなときに、地域の事前相談などに行くことをすすめることができればいいのですが伝えるのが難しいのです。
そこで思うのですが、認知症などの症状も波があります。ですから、定期的に来店するお店では危険などないが認知症の傾向が現れる出来事が生じる事があります。たとえば、自転車の鍵がわからなくなってしまったり。
そんなときにお店で手伝ってあげたりする場面があります。「鍵は胸ポケットではないですか?」などとサポートをするときです。そして、その機会に「また何かあるかもしれないので、、。」と話を切り出し同意書の説明をしっかりと行い、同意書にサインをもらっておくことが有意義であるとおもいます。
それから、その本人が社会福祉が必要であると感じたり、もう当店では手に負えない場合などは行政機関に通報をします。もちろん、本人や他人の身体や財産に危険のあるときは同意書の有無を問わずに通報します。
通報を受けた機関
通報を受けた行政機関はどのように考えるでしょうか?行政は「法律による行政の原理で動いていきます。」お分かりだと思いますが、法律をつくるのは我々国民の政治的代表が運営する国会やら地方自治体の議会です。(建前としてはです、実際は議員立法は少ない。)
行政機関は法律により行政を行います。ですから、本人のプライバシーに関しても法律に基づいて行動します。そうしますと、本人の同意のない通報の取り扱いには慎重にならざるを得ません。上記のような身体や財産に危険があるかなどの事実を調査しなければなりません。事実関係の立証は証拠が基本となります、証拠はあらかじめ残るように配慮しておかなければなかなかなものです。
同意のない通報では、本人のプライバシーと身体財産等の利益に対する公権力の介入が問題となると考えます。そうすると、明らかな危険がない場合にはプライバシーを優先させることになりそうです。このようにして、事件にならない段階ではなかなか行政機関としても行動に出ることができそうにもないと考えられるのです。
そこで、きちんと説明を受けた同意書が必要なのです。同意書があれば、プライバシーに関する危険をクリアーすることができます。そして、保護が必要な方のために社会福祉のために専門家たちが力を発揮することができるようになるのです。行政機関からみたら、通報者が日常的に本人の経過を見てた店であれば、いろいろ聞きやすいですし安心です。地域のインフラとして心強いですね。
当事務所の紹介
当事務所は、行政機関の資料を探したり取得したりする事務所です。
北原 伸介
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